十月の話なのでかなり前になってしまいますが、いつかは行ってみたいと思っていた、念願の富士山に訪れました。
富士山とはいうものの、いろいろなところで目にする素敵な写真のきのこがどこに行けば見られるのかを知らなかったため、まずは事前の場所探しからです。 人に聞くという手段もあるのですが、やはりきのこのお作法として禁じ手のような気もしたので、自分で調べることにしました。 (と言ってもネットで調べるわけですから、安易さには変わりないのですが)
そしてまず訪れたのは須走口五合目です。 きのこ狩りと言えばこことばかりの評判だったので、食菌はたとえ獲り尽くされても魅惑的な毒きのこは残っているだろう程度に考えていました。
しかし、その期待はいきなり裏切られることになりました。 着くなり目に飛び込んできたのは、山荘の前に並んだ何台ものテーブルを埋め尽くす夥しいきのこの山です。 最初は山荘で出すきのこ料理のために収穫したきのこを並べているのかと思ったのですが、そうではありませんでした。 山荘できのこが食べられるか否かを鑑定してくれるため、きのこ狩り客が獲ったきのこを並べて鑑定を待っているのです。
とりあえず山荘で食事がてら近くのきのこ狩り客の会話に耳を傾けていると、山荘で鑑定してくれるので、きのこと見れば片っ端から獲ってきて、食べられないものは後で捨てればいいという考えがまかり通っているようでした。 実際にきのこ狩り客に話を聞くと、きのこの知識などほぼ皆無で、カキシメジやニガクリタケなどの紛らわしいものはおろか、チシオタケまで、もしかしたら食べられるかもしれないからと、獲ってきているのです。
このようなことを言うと角が立つとは思いますが、さすがにこれには呆れて言葉が出ませんでした。 この人たちにとっては、きのこは生き物ではなく、食べ物でしかないのです。 食べられないと判定されたきのこは単なるゴミなのです。 その後、路端の草むらでビニール袋を逆さまにして、大量のきのこを捨てている人も見ましたが、正直胸が悪くなる光景でした。
そして肝心のきのこですが、やはり予想通り、ことごとく取り尽くされて残っているものはわずかで、この日いちばんの写真はロクショウギサレキンモドキに染まって真っ青になった倒木でした。 さすがにこれを獲る人はいないでしょう。
須走口五合目はこの状態なので、翌日は場所を変えて青木ヶ原樹海を目指して富岳風穴近辺の遊歩道に向かいました。
こちらはきのこ狩り客の姿もほとんどなく、打って変わって天国のよう。 遊歩道の入口から倒木いっぱいに生えたタヌキノチャブクロが迎えてくれます。 ここから鳴沢氷穴までの遊歩道と、精進湖方面に向かう遊歩道を歩いたのですが、普段見ることの少ないルリハツタケ、アカエノズキンタケ、ベニテングタケなどきのこにも出会え、思い描いていた通りの富士山のきのこたちとの出会いを満喫しました。
前日と較べるとまさに天国と地獄の違いではありましたが、富士山のきのこ狩りの実態を目の当たりにできたこともある意味、良い経験であったと思います。 あちこちで、食毒を離れた生き物としてのきのこの魅力を伝えるべく情報発信をしてきたつもりですが、今後もこうした活動を続けて行きたいと、僭越ながら思った二日間でした。